館長の朗読日記2100 (戦後72年12月20日 新規)
○高橋美江子さんから『米寿ひとり語り』のDVDをいただいた(1)
先日(12月13日)、思いもかけず、高橋美江子さんから『米寿ひとり語り』のDVDが郵送されてきた。このDVDは、今年2017年5月25日(14時開演)に「なかの芸能小劇場」で高橋美江子さんが開催&主演した「米寿ひとり語り」の一部始終を撮影したものである。私は朗読レッスンが重なって聴きに行けなかった。
そこで今回、わざわざそれを撮影したDVDを送って下さったのである。高橋美江子さんは、NHKラジオの「日曜名作座」で森繁久彌と朗読を共演した加藤道子に朗読を習った方である。その修練を基に独自に「ひとり語り」の道を歩み、昨年まで加藤道子に教わった仲間の数名と毎年「朗読日和」という朗読会を開催してきた。
それを聴いて感動した品川朗読サークル「あやの会」の会員たちから紹介されたのが、高橋美江子さんの面識を得た始まりであった。その後、私の「あやの会」の朗読レッスンを見学してもらったり、そのレッスンの場で2人でトークしたり、あるいは私が主宰する「小さな朗読館」を聴きに来ていただくなどして交流を深めてきた。
○高橋美江子さんから『米寿ひとり語り』のDVDをいただいた(2)
その後「朗読日和」のお仲間の1人である戸松育子さんが、以前から朗読的な交流のあった高知市在住の松田光代さんと親交があることも分かった。まさか高橋美江子さんと戸松育子さんと松田光代さんの間に関係があるなど思いもしなかった。実に朗読の世界は狭い。朗読者同士が、どこでどのように関係しているか分からない。
とにかく、そういう関係の一端として、今回、私は高橋美江子さんから『米寿ひとり語り』のDVDをいただくことができたのである。さっそく、そのDVD『米寿ひとり語り』を拝見した。演目は斎藤隆介原作「花咲き山」と藤沢周平原作「荒れ野」の2本である。この2本を高橋美江子さんはまったく台本を見ずに語っている。
斎藤隆介原作「花咲き山」は約7分。藤沢周平原作「荒れ野」は約50分であろうか。とにかく、朗読時間が50分〜60分となる作品2本を、まったく台本を見ずに語っているのである。しかも、映像を通してさえ、その舞台の迫力は十分に伝わってくる。高橋美江子さんは今年で米寿になっておられる。私は心底から驚嘆した。
○高橋美江子さんから『米寿ひとり語り』のDVDをいただいた(3)
高橋美江子さんが語った2本の作品「花咲き山」「荒れ野」は、私とも縁が深い。実は「花咲き山」は、私が初めて他人に自分の作品解読を披露した作品なのである。神田外大の「声のことばの勉強会」に参加していたとき、ある参加者から突然この作品の朗読指導を頼まれ、その場で即興的に「花咲き山」の解読をしたのである。
それ以降、私が主宰する「朗読入門教室」の教材作品として常用している。朗読漫画『花もて語れ』の朗読協力&朗読原案を依頼され際も、第3巻でこの作品をとり上げたが、とても評判が良かった。そして「荒れ野」は、2008年2月に本田悠美子さんと朗読会「小さな朗読館・山桜」を共催した際に、私が朗読した作品である。
本田悠美子さんは、今は解散してしまった三鷹朗読サークル「さつきの会」の代表だった方で、昔、宇野重吉や滝沢修にかわいがられた「劇団民藝」の元女優さんである。新劇出身だが、私の朗読の実技と理論を高く評価して下さって、私が指導する三鷹朗読サークル「さつきの会」に参加し、その代表になって下さった稀有の方である。
○高橋美江子さんから『米寿ひとり語り』のDVDをいただいた(4)
私は、いずれ本田悠美子さんが三鷹市周辺の朗読指導者になっていただくことを期待していた。また本田悠美子さんにもそのお気持ちがあったと思っている。しかし、真に残念ながら、その本田悠美子さんは2009月8月2日に白血病のため逝去してしまった。これに対し今もって私は痛恨の想いを抱いている。真に無念至極である。
従って、この「荒れ野」という作品は、本田悠美子さんの想い出と直結している。今回、高橋美江子さんが、約10年前に私が朗読した「荒れ野」をどのように語るのか。私は特段の興味をもって聴いたのだが、高橋美江子さんの「荒れ野」は、やはり予想した通りとても素晴らしかった。高橋美江子さん独自の確かな語りであった。
高橋美江子さん自身のイメージと心情が、溢れるように高橋美江子さん自身から放出され、舞台から客席の観客に向かって放射されていた。観客は、高橋美江子さんの語りだけでなく、声出し、息づかい、表情、身体全体の所作、否、高橋美江子さんの心身全体から放射されるイメージと心情に圧倒されたに違いない、と思われた。
○高橋美江子さんから『米寿ひとり語り』のDVDをいただいた(5)
私は、高橋美江子さんのDVD『米寿ひとり語り』の拝見しながら、思わず知らず、語りと朗読の違いに想いを馳せていた。優れた語りは、語り手の全身全霊をこめた語りで、観客の視覚と聴覚に向かって自身の作品世界のイメージと心情を放射し、舞台の上から観客の視覚と聴覚を圧倒する。そのために心身の総てを動員してやまない。
優れた朗読は、朗読者の全身全霊をこめた朗読で、観客の視覚と聴覚を吸引し、観客の頭と心の中に作品世界のイメージと心情を想像・創造するように誘導する。そのために心身の総てを動員して、文学作品に表現されている文字言語を認識し、表現されている作品世界を想像・創造して感動し、それを自身の音声言語で再表現する。
今回、高橋美江子さんから送っていただいた『米寿ひとり語り』のDVDを観て、語りと朗読の違いをこのように整理することができたのは、高橋美江子さんの語りが非常に優れたものだったからである。特にセリフの表現は素晴らしいの一語に尽きる。とにかく、語りと朗読の違いをこのように感得できたのは、ありがたかった。
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